犬の骨肉腫 [院長ブログ]
●ヴィヴィアン 4歳 ボルゾイ ♀
主訴は「足を着かなくなった!」でした。病歴は、「車から降りるときに足を引っかけそれから着地しなくなった」です。急性とのことで膝の十字靭帯断裂をまず疑い、鎮静をかけて精査させていただく事にしました。鎮静で筋肉を弛緩させて膝を検査するも断裂時の前方へ滑るサインはみられません、しかし時に痛みを発します。飼い主さんの「骨肉腫の可能性はありませんか?」の一言で、「ハット」。今度は、骨に圧力をかて観察することにしました。すると部分的に痛みの反応あり、嫌な予感を持ちながらレントゲン撮影に進みました。
●診断
レントゲン写真は、骨肉腫を思わせる所見がありました。典型的な骨膜反応は、太陽の炎所見ですが、ヴィヴィアンは軽度の骨膜反応があり、加えて骨髄における虫食像が認められました。
青:虫食い像
赤:骨膜反応
☆骨肉腫の典型的な特徴は、大型犬の中年に長骨骨幹端の近位.遠位1/3部に発生すること。レントゲン像では、@不規則あるいは太陽の炎様骨膜反応A骨皮質の崩壊B境界不明瞭な正常骨と異常骨の移行帯などが典型的所見です。
●健康肢
上記の患肢と比較するとよく分かります。
●骨髄塗抹
骨肉腫の治療は、早期の切断処置が常です。しかし、レントゲン写真と痛み所見のみで断脚をする訳にはいきません、追加検査により診断を確定する必要があります。急ぎ、骨の一部を採取して骨髄の塗抹と病理検査を行いました。
塗抹所見(以下の異常が認められました)
@核の大小不同
A核/細胞質の上昇、ばらつき
B粗造なクロマチン凝集
●病理検査
残念ながら結果は骨肉腫でした。
骨肉腫の予後は決して期待できるものではなく、多くは肺へ転移します。先ずは、著しい痛みを除去し、今後の治療はいくつかの治療オプションを飼い主さんとじっくり話をしながら決めたいと思います。
●断脚術
上記の結果により、右後脚を股関節を含めて全て除去しました。
●術後翌日
激しい痛みで涙を流した数日が嘘のようで、良い表情になりました。翌朝は食欲が出てササミを平らげました。
骨肉腫情報
犬の骨肉腫は、骨腫瘍の80%を占め人の発生率の8倍あり、18〜24か月と7歳齢の2峰性の年齢分布が見られます。鑑別診断には、血管肉腫、リンパ腫、多発性骨髄腫、骨の真菌、細菌感染があります。誠に残念ながら極めて悪性度が高く生存期間は長くないと言われます。
●予後
予後は良くないと言われますが、ネガティブな発想は止めて、希望を持って楽しく笑顔で過ごしていただきたいと思います。
本来備わる自然治癒力を呼び戻し、力を抜いて前向きに頑張りましょう!
犬の平滑筋腫 [院長ブログ]
●竜馬 パピオン 15歳 ♂
シャンプーに行った際に、肛門部分の異常を伝えられたそうです。直腸検査を行うと肛門入口直下に大きな塊を触知しました。
肛門をつまむとウズラ卵大の腫瘤が飛び出しました。
飼い主さんのお話では、どうやらかなり昔から便の出が悪かったそうです。
●超音波検査
腫瘤の周辺組織への浸潤および血管分布を調査するために超音波検査を行いました。結果は、血管の侵入がなく、組織への浸潤も無いことが分かりました。
●手術
超音波で検査を行っていますが、浸潤によっては直腸引き抜き術に変更しなければいけないため、念のために直腸粘膜側を切開しました。
3p程切開して、腫瘤周囲を慎重に剥がしながら、取の残しに注意して腫瘤の摘出を行いました。
●摘出腫瘤
見た目は可愛い?腫瘤です。しかし、この3pもの塊が昔から肛門入口に鎮座していたとなると、便が出にくい不快な日々を随分と長い間過ごしてきたことになります。現在既に15歳ですが、生活の質は今以上に向上することは間違いありません。
●病理結果
腫瘤は平滑筋腫でした。平滑筋腫は、直腸壁や骨盤腔に好発する傾向のある平滑筋由来の良性腫瘍です。腫瘤周囲への浸潤はなく今回の摘出で予後は良好と考えらました。

術後の飼い主さんからの感想は、想像通り「便の出る時間が以前と比べて早くなった!」でした。
快適な余生を送ってくださいネ!
犬の心タンポナーゼ [院長ブログ]
●柴Mix 桜 18歳 ♀
当院は基本的に完全予約制です、今回は早朝の病院周辺の掃除中に「具合が悪いので見て欲しい!」と慌ててで飛び込んでいらっしゃったお話です。
早速、診察させていただくと起立不能、虚脱、舌と粘膜蒼白(少し青い)などショックを思わせる症状を呈していました。飼い主さんからは、「昨日まで食事をしていたが、お腹を少し壊していた。今回も腹が悪いからだと思う。」程度のお話でした。聴診すると心拍と股動脈との連動に異常を感じました。血管を確保後、点滴を流し、次に心電図を測定。不整脈は無く、しかし、心臓の電気的刺激に反応しているけれども、低く出現している波形が気になりました。早速、心臓の超音波検査の必要性を感じ、まずは常に目の届くICUに入院いただきました。
●状態悪化
ICU管理下15分、横たわった状況から起立可能になり、顔つきにも変化が現れました。しかし、喜んでいたのもつかの間、次の瞬間には、呼吸速迫、横臥状況へ一変しました。急ぎ、緊急処置の為に、処置台に移送し気道チューブを挿管し気道を確保しました。超音波検査を並行して行うと、心臓の外側への著しい液体貯留(心タンポナーゼ)を認めました。心臓は既に周囲の多量の液体の圧迫により疲弊し、連動していた心電図は直ぐに心室粗動へ移行しました。
スタッフが胸を圧迫しながら復帰させますが再び悪化、直ぐに胸の消毒を済ませ、心臓に向けて超音波を見ながら一気にカテーテルを刺し込み排液を図りました。200ml抜けた頃には、心電図は正常に復しました。まさに間一髪の瞬間でした。
●退院
翌日には、状態が180度好転し、起立できるようになり、食欲も回復しました。数日カテーテルを装着したまま通院戴く予定です。心嚢内の液体には腫瘍細胞は見当たりませんでしたが、まだまだ予断は許せませんが、突発性であることを願っています。今回は、緊急事態であったため写真は残せませんでしたが、皆様にご注意いただくことは、徐々に痩せてくる原因の一つに心臓疾患があるとご記憶いただければ、18歳の桜の命がけの経験がお役に立てると思います。












